第1回 「キッチンから考える水の循環」セミナーを開催しました



平成19年11月17日(土)に、東京駒込の香川栄養専門学校で「キッチンから考える水の循環」の第1回セミナーを開催しました。
「おいしゅうございます」で有名な岸朝子さんの特別講演あり、水環境問題に造詣が深い栗原秀人さんの”見える下水道”のお話あり、横浜ロイヤルパークホテルの高橋明総料理長による特別レシピの調理実演と試食ありと、盛りだくさんの内容でした。






 
   
◇バランスの良い食事を◇

 最近、肥満、高血圧、心臓病、腎臓病、糖尿病など、生活習慣病と呼ばれる病気が増えてきました。お酒の飲み過ぎ、煙草の吸い過ぎ、運動不足、睡眠不足、ストレス…原因はいろいろあるようですが、やっぱり一番大事なのは食生活です。

 では、何をどうやって食べたらよいかということですが、私が香川栄養学園(現・女子栄養大学)の創始者である香川綾先生から教えていただいたのは、「魚1、豆1、野菜4」というものでした。
 その後、先生はバランスの良い食事の仕方をもっと分かりやすく伝えたいということで、食品を4つの群に分けることを提唱されました。まず1つが、牛乳・乳製品や卵などの第1群。牛乳や乳製品は合わせて1日300mlが目安ですから、牛乳ならマグカップ1杯程度。それから、卵は毎日半分〜1個。

 2群は魚介類や肉、大豆などのたんぱく質源ですが、大豆はたんぱく質を作るアミノ酸組成が良いんです。豆腐であれば、1/2丁くらい。納豆はパックによって違いますが、小さいのであれば1パック食べても大丈夫です。第3群は、体の調子を整えてくれる野菜、芋類、果物。野菜は緑黄色野菜を含んだものを1日350g、それから、果物が200 g。芋類はジャガイモで100g、もしくはさつまいもなら60gが目安です。

 最後の第4群はエネルギー源。主食となる穀物や、油脂、砂糖です。車で言えばガソリンに当たるもので、これがないと動かなくなってしまいます。日本人の主食と言えば、やはりお米ですね。もちろん、パスタもお蕎麦もいいのですけど、何と言っても、お米はアミノ酸が豊富。普通のお茶碗に3杯、お子さんならもうちょっと食べていただきたいですね。

 それと、忘れてならないのが植物性の油。植物油はリノール酸やリノレン酸を含んでいますので、動脈硬化を防いでくれる効果もあります。また、砂糖も良いエネルギー源で、疲れをとってくれる効果がありますので覚えておいてください。

 あとは、肝心なのがお酒。これは、ビール大瓶1本でだいたい240kcalです。私は冷酒が好きで、2合くらい飲んだこともあったんですが、「あらやだ、かけそば1杯食べたことになっちゃうわ」と思って、1合に減らしたんです。それでも、足りない時は、焼酎をちょっと飲むんですけどね(笑)。とにかく、お酒も人によりますが、適量に飲めば効能が期待できます。ビールは、整腸作用を持っているとも言われているんです。そして、心の栄養にもなるんですね。

◇水と食の関係◇

 今、ペットを飼う人が増えていますでしょう。それで、何でも水で流してしまう人がいるらしくて、海水が汚されて、今までなかったペットの菌が問題になっているという話を聞きました。とても怖い話です。水の使い方には、本当に気をつけなければなりません。

 先日は、C.W.ニコルさんと、島村菜津さんと一緒に、宮城県石巻市で「環境と水」をテーマにお話を致しました。石巻は、世界でも有数の牡蠣の産地で、世界の牡蠣の90%が石巻にルーツを持つと言われるほどです。やはり環境がいいんですね。

 父(宮城新昌氏)は、牡蠣の養殖に一所懸命取り組んだ人でしたが、生前、その父が良く言っていたのが、山がダメになると川がダメになり、川がダメになると海がダメになる」というものでした。これは、気仙沼の畠山重篤さんがおっしゃっている「森は海の恋人」と同じことなんですね。川は森から出た栄養をたくさん海に運んで、それを食べる植物プランクトンが大量に発生するから牡蠣が美味しく育つわけですが、肝心の森が荒れてしまったら、川は栄養を運べなくなります。水がいいということは、森がいいということ。森と川の自然を大切にすることが、海と食を活かし、私たちの健康を守るということにつながります。

 東京湾も最近、川がきれいになったことによって、一時取れなくなった魚が戻ってきたそうです。このように、水は私たちの食を支えるものでもありますから、どうぞ、大切に使って、川や海を汚さないようにしてください。


【プロフィール】岸 朝子(きし・あさこ)。1923年、東京生まれ。女子栄養学園(現・女子栄養大学)卒。32歳で主婦の友社に入社し、料理記者のキャリアをスタートさせる。1955年9月、女子栄養大学出版部「栄養と料理」の編集長に就任、1979年に株式会社エディターズを設立し、代表取締役となる。1993年に始まったフジテレビ「料理の鉄人」に出演し、「おいしゅうございます」のコメントで話題に。「だから人生って面白い」(大和書房)、「岸朝子のおいしい長寿のお取寄せ」(文化出版局)など、出版物多数。





 
   
◇生活することは汚れを出すこと◇

 こんにちのように、水に不自由しない「便利で快適な生活」が実現した陰には、先人たちの知恵と工夫、並々ならぬ努力があります。一方、私たちの水の使い方ですが、一日の生活で一体、どれくらいの水を消費しているでしょうか。

 答えは、家庭内の生活で約250リットル、仕事やレジャーなど家庭外での消費も含めると、平均約300リットルです。昭和40年頃は1人1日約170リットルだったとされていますから、この40年間で1.8倍近くに膨れ上がった計算です。どうしてこんなに変わってしまったのでしょうか。

 私の子供の頃を思い返してみますと、当時はまだ水道なんてありませんでしたから、自分で川に汲みに行っていました。これは、子供にとって、決して楽な家事ではありませんでしたが、そのぶん、水には価値が感じられました。とても大切に使ったものです。今は、いたるところに蛇口がついていますから、水が簡単に手に入れられるようになり、それで、多くの場合、使ったらそのまま流す生活スタイルに変わってきているのだと思います。ちなみに、家庭で使う水の内訳はと言いますと、一番多く使われているのがトイレで、約28%。次にお風呂で約24%。炊事も23%と多く、そのほか洗濯17%、洗面など8%となっています。

 一方、水を使うことに伴って排出される汚れは、何で測るかによっても違いますが、物差しとしてよく使われるBOD(微生物が水中の汚れである有機物を分解する時に必要とする酸素量)で見ますと、台所から出るものが一番多いんです。「平成19年度版環境白書」によりますと、1人が1日に家庭生活で出す汚れ(BOD)は43gですが、そのうち40%(17g)を台所が占めます。また、トイレ(ウンチ・おしっこ)は30%(13g)、お風呂が20%(9g)、洗濯その他が10%(4g)となっています。ただ、富栄養化の原因として知られる窒素で見ますと、お風呂や台所の雑排水2gに対し、ウンチ・おしっこが9gで、圧倒的にトイレが汚れの原因になっているんです。

◇水の循環の中に私たちの生活はある◇

 隅田川の風物詩、「隅田川花火大会」と「早慶レガッタ」は、いずれも昭和36年に一時、中止されました。その最大の理由は、隅田川が汚くなり、人が集まれなくなったことにあります。当時を振り返りますと、隅田川流域の下水道普及率は10%。これに対し、水道の普及率は8割で、多くの都民が潤沢に水を使うことができた反面、使った後の水はほとんど未処理で放流され、その結果、人も寄り付けないほど深刻な川の汚染を招いたということなのです。

 一方、この2つの伝統ある催しが再開されたのも同じ年でした。昭和53年です。この頃になると、下水道普及率(隅田川流域)も6割を超え、汚水がきれいに処理されてから放流されるようになったので、隅田川も以前の姿を取り戻しつつあったのです。

 多摩川も昭和40年代は汚染がひどく、それが原因で鮎が一時、姿を消してしまったのですが、隅田川と同様、最近は下水道の普及によって水質がすっかり良くなり、昭和58年頃から徐々に鮎が戻りはじめました。そして、平成18年にはなんと120万を超える鮎が遡上したと報告されています。

 水は私たちの食生活を支えているというだけでなく、心の豊かさや癒し、四季折々の風物詩、文化、風土といったことにも大きく関係しており、その中で失われつつあったものを取り戻す手段として、下水道が大きく貢献していることがお分かりいただけると思います。そして、大切なことは、「水は循環している」ということです。私たちが家庭で流す水も、それが最後の関わりではなく、どこかでまた食材を育む源となって、再び私たちの手元に届いたり、あるいは、飲み水として台所に送られてきたりするのです。そうした循環の中に、常に、私たちの生活はあるのだということを覚えておいてください。

◇排水思源◇

 中国に「飲水思源」という言葉があります。直訳すると、「水を飲む時に上流のことを思いなさい」というものですが、この言葉が教えてくれるのは、「ものごとにはすべて根源がある」、「ものごとの本質を考えなさい」ということです。

 この言葉にならって、私が皆さんに贈りたいのは、私の造語、「排水思源」です。

 水は飲み水であれ、排水であれ、大きな循環の中で、巡り巡ってまた自分たちのもとに戻ってきます。先にも触れたように、私たちは近代化の歴史の中で、一時、水質汚染という事態に直面しました。その経験の中で、私たちは多くの場合、自らを被害者の立場に置いてきたように思いますが、果たしてそれは正しかったのでしょうか。人間は例外なく、直接的であれ、間接的であれ、水を使います。ですから、考え方によっては、実は、私たちも加害者の一面を持っていたのではないかと思うのです。

 私たちは先人から受け継いだ水の恵みを、今日に至る都市機能の効率化や生活水準の向上を追い求める中で、一旦、駄目にしてしまったのではないでしょうか。しかし、その過ちに私たちは気付き、個人でできること、社会でできることを見つけ、少しずつ具体的な取り組みをスタートさせています。その象徴が多摩川に戻ってきた120万の鮎ではないかと思うのです。

 台所から水を流すとき、お風呂に入るとき、「排水思源」を思い出してください。そして、ご自分なりにできることを考えてみてください。




【プロフィール】栗原秀人(くりはら・ひでと)。昭和26年、長野県安曇野生まれ。東北大学工学部卒業後、昭和50年4月、建設省(現・国土交通省)に入省。下水道事業課長など数々の要職を務めた。退官した現在も下水道事業の発展に尽力する一方、関東地方整備局京浜工事事務所長など河川整備に携わった経験を活かし、「人・川・街のいい関係づくり」の活動を展開している。





 
   
◇おいしく学ぶ 自然環境と食の関係◇

 フランス料理の歴史、素材の相性、なるべく水を流さないで調理する工夫などについてお話しいただきながら、秋の味覚たっぷりの、家庭でおいしく作れるレシピをご紹介いただきました。

 




【プロフィール】高橋明(たはかし・あきら)。昭和34年、川崎生まれ。昭和54年に武蔵野調理師専門学校を卒業し、ホテルセンチュリーハイアット東京に入社、15年間にわたってレストラン、宴会で研鑽を積む。平成5年に横浜ロイヤルパークホテルに開業とともに入社、平成18年に総料理長に就任、現在に至る。確かな技術にアイデアを加えた横浜らしいロマンティックな料理を発信し続けている。



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