下水道管の守り手たち 〜技士認定試験を覗いてみよう〜






管路研修センター
 
   

 私たちが家庭から出す汚れた水を集め、きれいにしてくれる下水道。中でも、下水道管は最も身近な場所にあって、水の循環を支えてくれる縁の下の力持ち。けれど、その姿は見えにくく、日頃、どのように手入れされているのかもわかりません。
 そこで、今回は、専門家集団である社団法人日本下水道管路管理業協会の関係者の方々にご協力をお願いし、下水道管を守る現場を拝見させていただきました。


 はじめに、勘違いされている方も少なくないと思いますが、下水道は“つくったらお終い”の施設ではないんですね。「つくった後の施設の手入れや管理が重要で、そこをきちんとやらないと、下水道管が破損して、その上を通る道路が陥没してしまうなど、大きな事故にもつながりかねない」という話を伺いました。でも、下水道管は道路などと違って、人目に付かない地中にありますよね。一体、どうやって内部を点検したり、清掃したりするんでしょうか。そこには、とても特殊な技術の存在があったんです。

 国土交通省のデーター(平成
17年度末)によりますと、日本の公道下に埋設されている下水道管は383833kmに達するそうです。これは、地球9.6周分に当たると聞き、大変驚きました。

 一方、これだけ膨大な施設を管理するのは県や市町村。当然、多くの職員を擁して仕事に当たっているのかと思いきや、財政が厳しい折、職員を増やすわけにもいかず、点検や調査を行うに当たっては、緻密で戦略的な計画の遂行が求められているそうです。また、点検の結果明らかになった管の状態に応じて、清掃、補修、あるいは新しい管の入れ替えなど、具体的な対応を限られた財源の中で経済的かつ効果的に行うことが課題になっているといいます。

 冒頭に触れたように、下水道管の中に溜まったゴミや汚泥を放置しておくと、汚水が下水処理場に集まらなくなるばかりか、汚泥から硫化水素ガスといった物質が発生し、管の腐食の原因にもなります。下水道管の腐食は、道路陥没を引き起こす原因(実際、平成18年度には下水道管路の老朽化に起因した道路陥没は4400箇所にのぼるそうです)でもあり、手入れや管理を的確に行うことは、私たちの安全を守ることでもあるのです。

 このように考えますと、街の安全と下水道の機能維持を図るためには、下水道管の管理における適正な技術を身につけた技術者を育成することが大切です。そこで、大きな役割を担っているのが社団法人日本下水道管路管理業協会で、技術者育成の一環として、下水道管路管理専門技士認定試験制度というものを毎年行っているといいます。今回は、この認定制度の概要について伺うとともに、実際の試験の様子を覗かせていただきました。

 まず、認定の種類ですが、下水道管路管理専門技士、同主任技士、同総合技士の3つがあるそうです。ちなみに、専門技士を受験するためには3年以上の実務経験が必要。また、主任技士は同5年以上および下水道管理技術認定(管路施設)という公的資格を有していることが必要条件で、総合技士に至っては、さらに豊富な経験(7年以上)と技術力が求められます。

 合格率は専門技士が約
80%、主任技士が約60%、総合技士に至っては20%弱と、狭き門になっています。管路管理業協会によると、平成10年度(この時は専門技士の認定のみ)の制度開始以来、これまで(2007年9月時点)に誕生した技士は専門技士5339人、主任技士1341人、総合技士108人の計6788人だそうです。

この認定試験は全国の主要都市で実施されていますが、実技テストにおいては、関係者がフィールドの確保に苦心されているようです。なぜなら、下水道管はそのほとんどが公道下に埋められていますので、実際に使用されている下水道管を用いて実技試験を行おうとすると、道路を部分的に閉鎖しなければならなくなるなど、弊害が生じるからです。そこで、例えば下水処理場の一角を借り、その敷地内の管を使って実技試験を実施したり、あるいは企業などの敷地に本物の下水道管を模した模擬管を設置し、そこで実技試験を行ったりしてきました。ただ、平成16年度に、全国初の専用フィールドとして管路研修センター(埼玉県朝霞市)が完成。これにより、試験(関東エリア)の実施はもとより、若手技術者の育成や研修が一層効率的に行えるようになったといいます。

 さて、実際に実技試験の様子を覗いてみましょう。

 調査には、人間の体を診るときと同じように、小型カメラが使われます。それも、下水道管の中に入る小さなリモコンみたいな車輪付きロボットに設置されたもの(テレビカメラ搭載車)です。これを、地上のモニタを見ながら遠隔操作して、中の状態を確かめるのです。その手順はだいたい次の通りです。

@まず、作業の安全対策(車止め、管内の酸素・硫化水素ガス濃度の測定など)をします。これを怠ると、思わぬ事故につながりかねません。

A次に、テレビカメラ搭載車の操作確認などを行います。事前のリハーサルですね。

B管内にテレビカメラ搭載車を入れます。(通常はマンホールから入れます)

Cテレビカメラによる管内調査を開始。テレビカメラは秒速1525cmの見やすい速度で進めます。

D異常箇所を発見した場合は異常項目を記録します。

E最も厳重にチェックしなければならないのが、管と管の継ぎ合わせの部分。ここではカメラ搭載車を停止し、異常箇所はカメラを360度まわしながら点検します。

F取付管(各家庭からの排水は一旦、汚水ますに集められますが、そこから下水道の本管へと接続するための管を取付管といいます)を発見した場合はその位置や取付管番号等を記録表に記入するとともに、取付部を綿密に調査した後、取付管内も調査します。

G一連の調査が終了したら、テレビカメラを元の状態に戻すなど、後片付けをします。

 これで、調査は概ね終わりですが、下水管にはゴミなどが溜まることがあるので、清掃作業も重要です。それには、高圧洗浄車という特別な車両が用いられます。

 まず、調査のときと同じように、マンホール周辺の安全対策や管内の酸素・硫化水素ガス濃度の測定などを行います。次に、高圧洗浄車により、まず、管内に溜まった砂利や汚泥などを下流側のマンホール内に集めます。これは、ジェット噴射する水の勢いで砂利などを吹き飛ばす要領(試験では標準時間が15分と決められています)です。

 そうやってゴミや砂利を一カ所に集めたら、今度は、汚泥吸引車と呼ばれる特殊な車両で、集めたものを吸引します。この場合、水も一緒に吸い込みますので、一度、吸引したものをタンクに貯めて、砂利などを沈め、上澄み水だけをマンホール内に排水します。

 このようにして、下水道管はできるだけ長く使えるように日々手入れされ、私たちの暮らしを陰で支えてくれているのです。

 今回の見学を通じ、たゆまぬ努力と訓練によって技術を磨きあげている技士の方々の存在を知り、とても頼もしく感じました。また、それと同時に、私たち自身が家庭から流すものに細心の注意を払うことが大切なんだと、改めて感じた次第です。

 なお、認定試験の内容など、詳しいことをお知りになりたい場合は社団法人下水道管路管理業協会のホームページhttp://www.jascoma.com/をご覧ください。


    
    テレビカメラ搭載車を設置する様子   清掃の様子(中央が高圧洗浄車、左が吸引車)





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